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マインドワンダリングから考えるADHD特性の活かし方

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2021.11.29

ADHDで不注意症状が強い方の場合、「今目の前の出来事」から気持ちが遊離していってしまうことがあると思います。過去の出来事の後悔や未来の不安、現在の別の懸念事項に気を取られてしまい、「今目の前の作業」にミスが出てしまう経験は珍しくないでしょう。

私も自覚的になったために多少改善してきたとはいえ、このやっかいな症状には未だに悩まされています。時計の時刻を読み違えたり、手作業がおぼつかなくなったり、次にすることの手順がわからなくなってしまう、などです。

一方で、たとえば軽作業中に別の仕事の解決案が浮かんできたり、計画していた内容の欠点に気づいたりするなど、この特性が必ずしもマイナスの面ばかりではないというのも事実です。このコラムでは、この特性のプラスとマイナスを考察し、どう日々の生活の中で調和を取っていけばいいか、私なりの考えをお伝えできればと思います。

※筆者自身に専門的知識はなく、あくまで実感としての内容にはなります。

執筆:大河内 光明 Komei Okouchi

マインドワンダリングと発想力

ADHDの方の特徴を挙げる文献には「発想力がある」という文言がよく出てきます。最近の研究ではこの不注意症状と発想力が、あるキーワードで結びつけられるようになってきました。それが「マインドワンダリング」です。

「マインドワンダリング」とは、上で指摘したような「今目の前の出来事」から「意識が遊離していってしまう」現象です。これはまさにADHDの不注意症状そのものを指す言葉といっていいと思いますが、実際に今回参照した文献には、下記のような指摘がありました。

ADHDを持つ人は、そうではない人よりもマインドワンダリングが頻繁に生じやすく(e.g., Barkley, 1997; Shaw & Giambra, 1993)、かつ拡散的思考を測定する創造性テストの成績が優れていることが報告されている (White & Shah, 2006)。

引用元:『マインドワンダリングおよびアウェアネスと創造性の関連』社会心理学研究 第32巻第3号p152

拡散的思考とは、発想の数の多さや奇抜さなどを新しいアイデアを生み出す考え方のこと。非常に平たい言い方をすれば、「目の前の作業中に別のことを考えており、その中で創造的なアイデアを生み出す能力に優れている」ということなのかと思います。

一方で、マインドワンダリングは目の前の作業にミスが多くなり、アイデアを発想する際にもネガティブな感情を伴いやすいことが挙げられています。

実際、このプラスとマイナスの両側面は私も痛いほど実感があります。実はこの記事のアイデアも、とある作業をしている最中に思いつきました。筆者自身、認知行動療法や投薬治療を受けていますが、改善はしても完全になくすことはできていません。

マインドワンダリングという思考の癖は、ADHDの人には一生涯つきまとうものなのでしょう。しかし、そうなのだとすれば、マイナスの側面は抑え、プラスの側面を延ばしていきたいもの。どうすればいいのでしょうか。

マインドワンダリングとアウェアネスの調和をとる

当事者としての実感としては、「マインドワンダリングを完全になくすことができない以上、それが起きることを前提で仕事を組む必要がある」と思っています。

やはり不注意症状が強い方は、ミスが致命的な結果をもたらす仕事をなるべく避けるべきでしょう。普段、軽作業や事務補助などの仕事をしつつ、企画のアイデアだしなどの創造的な仕事をする際には会議だけでも出席させてもらうなど、会社と交渉することはできると思います。

マインドワンダリングが強すぎる場合には、「今ここに目を向ける」マインドフルネスの練習をするのもいいでしょう。マインドフルネスの中核をなすアウェアネスという概念は、目の前の作業や、今やるべきことに意識を向ける能力を指します。この練習をすることによって、マインドワンダリングをある程度抑制することができそうです。カウンセラーにマインドフルネスの練習がしたいと申し出れば、プランを練ってくれるでしょう。


また、マインドワンダリングを思いっきりする時間というのを決めておく、というのも有効かもしれません。帰宅後の20分間散歩の時間に、お風呂の時間に、業務の休憩時間に……などです。個人的には体を動かす作業と連動させるといいアイデアが出てくることが多いので、家事などの雑事中にするのがいいと思っています。

ただ、気を付けるべきなのは、マインドワンダリングの特性=悪ではなく、一つの個性なのだという点は重要かと思います。必要なのは「マインドワンダリング、アウェアネス両者のバランスをとること」で、仕事中には今の自分の意識がどちらよりの状態なのか、常に意識することが必要だと思います。

1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、web出版社、裁判所職員を経てライター。発達障害(ADD、ASD)当事者。

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