34歳白杖ガールが恋から学んだ大切なこと
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2021.12.9
誰よりも近くであの人のことを見ていたい。生まれつき目の見えない私にもそんなことを夢みた時期があった。今回は、ドラマ『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』の原作を読んで思い出した、恋についての話。
執筆:山田 菜深子
誰よりも近くで、誰よりもちゃんと、あの人のことを見ていたい。自分のこの目で受け止めたい。そして言ってあげたい。「髪切ったんだね、似合ってるよ」なんて。
生まれつき目の見えない私にもそんなことを夢見た時期があった。
さて、どうして突然こんな話を始めたのか。それは、今話題になっているドラマ『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』の原作を読んで思い出したからだ。恋したあのときのことを。その主人公のようにあれこれ悩み、成長(?)したときのことを。
盲学校で知った「恋の魔法」
主人公と同じように、私も高校生のときは盲学校に通っていた。恋愛について激しく興味を持ち、いろいろと思いを巡らしていた。というのも、盲学校は恋の生まれやすい場所だったのだ。
なぜ恋が生まれやすかったのか。それは、生徒の人数が驚くほど少なく、人間関係がかなり濃密だったから。私もそうだったが寄宿舎生活をしている人も多く、お互いのことを嫌というほど知っていたから。
おかげで私の周りでも何組かのカップルが誕生した。残念ながら私自身は誰ともそういう関係にはならなかったけれど。
恋愛にいそしむ友人たちの姿をただただ眺め、私は羨ましく思った。みんなとにかく楽しそうで、キラキラしている。新たな姿を見せてくれる人もいた。文科系タイプの友達がふいにスポーツで活躍するようになったりして、その大きな変化に驚かされたものだ。
「なるほど。これが恋の魔法なのか。」などと勝手に納得したのだった。
一方で「盲学校内恋愛は遠慮したい」という気持ちも私にはあった。狭い世界で、誰かと誰かが付き合い始めればすぐにバレてしまう。隠していたってバレる。そしてすぐに広まる。もちろん別れたときもすぐにバレる。そしてすぐに広まる。
「私が当事者だったら耐えられない。」と常々感じていた。盲学校で私に恋愛の機会が訪れなかったのはきっと幸運だったのだろう。
悔しさが魔法に変わる
そんな私も、盲学校を離れてから男性とお付き合いすることになった。まさか自分にそういう日が来るなんて、奇跡だ。それはもう夢のような時間だった。
ところが、すぐに壁にぶつかった。「会いたい。」と思ったとき、自分の足でいつでも自由に彼のところへ行きたいのに、できない。彼に喜んでもらえるようなおしゃれをしようと思うのに、うまくできない。彼の役に立ちたいのに、頼ってほしいのに、助けてもらうばかりで何もできない。
「できない」のオンパレード。「ああ、やっぱり私って障害者なんだな」という事実をこれでもかというくらい痛感させられた。
わかっている。そんな風に悩む必要なんてない。わかってはいるけれど、悩むことはやめられなかった。
普段は息をひそめているネガティブお化けがここぞとばかりに顔を出し、禁断の言葉をささやきかけてくるのだ。「見えていればよかったのに……」と。
悔しいから、私は行動に出た。彼のためにできることはないかと必死で研究したり、知らない場所を一人で歩いてみようとしたり。ちょっと無謀なことであっても不思議と怖くなかった。やりたいことを実現するためなら何でもしたかった。
普段私が考えることと言えば「いかにエネルギーを使わずに済ませるか」なのだが、このときばかりはその発想はなかった。盲学校で目の当たりにした、あの「恋の魔法」にかかっていたのだろう。「恋は盲目」などというけれど、盲目の私が恋をしたら最強かもしれない。
結局そうして動いても、多くの場合は思うようにいかなかった。現実は厳しい。それでもきっと、じたばたしてみたことには意味がある。楽しかったから。それに少しだけ強くなれたから。あのときの自分に拍手を送りたい。知らない道で助けてくれた見知らぬ方々に改めて感謝したい。
恋が気づかせてくれること
魔法にかかっていない私にとっては、「あきらめること」が当たり前になっている。やりたいことができなくても、「生きるのに困るわけじゃないし、まあいいか、しょうがないよね」と我慢するのだ。その方が楽だから。そう、もちろんこれも一つの選択肢。悪いことではない。
でも、本当にそれでいいのか。本当はあきらめたくなんかなかったとしても無意識のうちにその気持ちにふたをして、あきらめていることにすら気づいていない可能性だってあるのだ。そんなの楽しくない。生きるのに困らなければそれでいいなんて、こんなもったいない話があるだろうか。できるようにする方法を探る価値は十分にあるのに。
簡単なことではないけれど、それでも何かやってみれば、ネガティブお化けが幅を利かせることのない世界が作れるかもしれない。人生をもっと充実させるために、たまには行動を起こすのもいいかもしれない。恋をしたあのときの自分はそんなことに気づかせてくれる。恋は私を、そして世界をよりよくする原動力なのかもしれない。
よし。こうなったら夫にまた、恋でもしてみますか。
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Text by
山田 菜深子
1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。