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もう「やさしく」なくてもいい。

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2022.3.7

「やさしさ」は素晴らしい性質です。広い視野で気を利かせてあれこれと手をかけてくれる人は魅力的に映ることもあります。ただ、その性質がどこか空回りして、本人はもちろん、周囲の人を苦しめてしまうこともあるのです。

執筆:いりえ(北橋 玲実)

私はASD(自閉症スペクトラム)なので、基本的に視野は狭く、空気は読めないし、気配りができるほうでもありません。対人関係スキルも高くないほうでしょう。

実際に親から「気を遣いなさい」「人の気持ちを考えなさい」と言われた記憶も残っています。私自身、「やさしい」という言葉とは縁が遠いのだと今でも強く思います。

しかし、人は学習して成長できる生き物です。人生経験を積んだ年長者と接する機会が多い環境で働いたこともある私は、おぼろげながら「こうすれば人に好かれる」ということを学び取っていった気がします。

でも、人に好かれる「やり方」を習得することが独り歩きしてしまい、感じなくていいストレスが増えたことも否めません。

あらゆる教育や習慣形成において言えることですが、「やり方」をなぞり、人に好かれるなどの「結果」に固執してしまうと、目に見えない感情や意思、特に自分自身のメンタルを犠牲にすることが起こりえます。

たとえば、「やさしさ」を取り巻くトラブルの代表例に「してあげたのに」と感じる状況があります。誰かに対して親切心で行ったことに対し、感謝や見返りがないことに不満を持ってしまうシチュエーションです。

身近な誰かがトラブルに巻き込まれていたり、仕事で困っていたりするときに、手を差し伸べることは「やさしさ」の一種と言えます。でも、手を差し伸べたその行為に対して感謝されるかどうかは、あなたにはコントロールできません。あなたの行為を相手がどう捉えるかは、相手が決めることです。

もしかすると、あなたの行為に対して相手から何も感謝がなかった時、「してあげたのに」「なぜ感謝してくれないんだろう」というネガティブな感情が生まれるかもしれません。その瞬間、相手に対する不信感や不満を感じるだけでなく、余計なトラブルを引き起こすことさえあるでしょう。

あなたは「やさしさ」を発揮して相手のために行動したはずです。ですが、あなたが「してあげた」行為は、本当にあなたがしたかったことなのでしょうか。

きっと違いますよね。心のどこかに「面倒だけどしかたがないから」という思いがあったからこそ、不満を感じているのです。

もちろん、そこでしてあげなければ、後であなたが困るということもあります。ですが、もしそうなのであれば初めから「自分が困るからやる」と行動すればいいのです。

「相手のため」という言い訳などせずに、あなたがあなたの欲求に従って行動すれば、相手から何も言われなくても「これでよかった」と満足することもできるはずなのです。

「してあげたのに」という不満は、あなたが「やさしさ」を発揮するという名目で「あなたがやりたいこと」を抑圧していることに端を発しています。

「してあげる」ことそのものは、相手から求められているわけではありません。もちろん、あなたがあなた自身の欲求を抑圧して「仕方なくやる」ことも、要求されているわけではないのです。

ここで注目すべきことは、「してあげた」側は初めから不満を持って行動しているということです。心のどこかに「やらされ感」のようなものを抱えたまま、「ここまでやってあげたんだから感謝してくれるよね?」という期待を持っているのです。

相手側からしても「やってあげたんだから感謝しろ」と行動をコントロールされているストレスを感じることもあります。

このように、する側もされる側も不満を抱きやすい「してあげる」という行為は、なぜ起こるのでしょうか。

原因を一つに絞ることは難しいですが、大きな原因は「やさしくあるべき」という社会的動物としての私たちの思い込みにあります。

その傾向は特に日本人には強いですが、他人に気を遣う、迷惑をかけない、やりたいことは我慢して周りに合わせる、といったことを良しとする風習が、このような「抑圧」や「我慢」を起点とする行動に私たちを駆り立てているのです。

集団の中に押し込められてルールを守ることに無意識になじんだことのメリットはありますが、それでうまくいっていた時代はもうすでに終わっているのかもしれません。

実際に、アメリカの上場企業500社を対象に、ハーバードビジネススクールが10年にわたって追跡研究を行った結果によれば、抑圧/義務的な雰囲気の企業よりも肯定/楽観的な雰囲気である企業の利益率は756倍も大きいという結果が出ています。

よく考えれば当たり前ですが、「やるべきこと」よりも「やりたいこと」をやる方がやる気も持続しますし、生産性も上がります。

完全に100%にすることは難しかったとしても、あなたが今よりも「やりたいこと」に忠実に生きることで得られるものは少なくありません。今の時代、その生き方を許されているのは、何も限られた人だけではないのです。

「やりたいことなんてわからないんだけど」という方も多いかもしれません。これまでの人生で「やるべきこと」に重きを置いてきた私たちがそこで切り替えをすることは難しいことです。

そんな方は「やりたくないこと」を減らす一歩から、ぜひ始めてみてください。あなた自身をいかに日常的に抑圧していたかに驚くはずですよ。

いつでも、なんでも、誰でも肯定するアスペ。Estlaughtive代表。自己肯定感育成スクールを通して「『生きづらい』を乗り越えてありのままに生きる」ための考え方を拡散中。その他にもコーチング、コミュニティ、講演会の出演、経営コンサルを行う。著書2冊はそれぞれAmazon6、7部門ベストセラーとなった。

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