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表情が見えない!そんな私がコミュニケーションで気を付けていること

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2022.3.31

表情は、相手の気持ちを知るための重要な手がかりだけれど、全盲の私は表情が見えない。私はどうやって、相手の気持ちを読み取ろうとしているのか。手探り状態ではあるけれど、コミュニケーションで気を付けていることをお伝えしようと思う。

執筆:山田 菜深子

表情は、相手の気持ちを知るための重要な手がかり。ところがマスク着用が当たり前の今、それを見ることは難しくなっている。人との関わりにお悩みの方も多いのではないだろうか。

長年全盲やってきた私は、ある意味「表情を見ないコミュニケーションのプロ」かもしれない。そこで今回は、私がそういったコミュニケーションで気を付けていることをお伝えしようと思う。


始まりは中学時代

「プロ」だとか「気を付けていること」だとか、つい調子に乗って大きく出てしまった。本当のところ、それほどちゃんとしたことをしているわけではない。私も手探り状態だ。

参考にしていただけるような話ができるのか。若干心配ではあるが、まあ、進めてみよう。

私にとって表情に当たるものと言えば、声の調子や発する音、気配など。そこに意識を集中させて、相手が今どんな気持ちなのかを確かめようとする。私にできるのはその程度のことだ。

では、自分なりのそのやり方で、これまでうまくコミュニケーションを取れていたのか。答えを探そうと記憶の引き出しをかき回していたら、中学時代のことをふと思い出した。相手の気持ちを読み取る、そんなことを真剣にやり始めたのはその頃からかもしれない。

盲学校に通っていた私は、いつもアットホームな雰囲気で授業を受けていた。生徒2人に対して先生が1人。家庭教師感覚だった。先生との距離は非常に近かった。とても良い環境だったと思う。

ただそんな環境だから、先生の心の状態というのが大きな関心事となった。授業中平和に過ごせるかどうかはそこにかかっていたのだ。

声や気配にじっくり耳を傾けた。特に数学の授業のときはアンテナがよく働いた。というのも当時お世話になっていた数学の先生、素敵な先生ではあったのだが、ただならぬ気配を漂わせていたのだ。その先生が教室に入ってこられた瞬間に、その場の空気が大きく変わったりするのだ。

テストの返却日など、気が気ではない。先生の登場によって教室の空気がドヨーンと重たくなったらもう地獄だ。「あ、今回のテストのできはそういうことか、今無闇に先生に話しかけたらまずいぞ、どう乗り切るか考えなければ」ということになる。

重たい空気に包まれると、何ともいたたまれないものだ。でも先生がそんな空気にしてくれるのはありがたい。おかげでどうにか心の準備をして授業に臨める。

それ以上空気を重たくしないために何をするべきか。私は一生懸命検討した。当時の私にはプリントに書かれた計算問題よりそっちの計算のほうが大事だったのだ。

その計算が正解だったのかどうかはわからない。それでも、こっぴどく叱られてさらに空気がドンヨリするというのは避けられた(はず)。自分なりのコミュニケーションはまあうまくいっていた、ということだろうか。

手がかりを得られないときはどうするか

とはいえ、いつだってそのときのようにうまくいくというわけではない。表情を見ないで気持ちを読み取るのは至難の業だ。

特に相手がとても静かで手がかりとなる情報が得られないときは、どう対応するべきか判断に迷う。話しかけようと思っても、今話しかけていい状況なのかどうかはわからない。

そこで、私が選ぶ1つ目の対応策。それは、「様子を見る」。

今考え事をしているのかもしれない。スマホに夢中になっているのかもしれない。できる限りその邪魔をしたくはないから、不用意に話しかけたりしないで、相手からのアクションを待つのだ。

ただ、「待つ」というのがベストとは言えない。どうしても話しかけなければいけないときもある。話しかけたいときもある。「この話、今すぐに聞いてほしい!」と思うのであれば、もう躊躇などしていられない。

そこで2つ目の対応策。「思い切って話しかけてみる」。

手がかりがないなら、やはり相手の状況は話しかけてみないとわからないからだ。出たとこ勝負である。

もちろん、相手を不快にしたくはない。だから話しかけるときには細心の注意を払う。そのとき相手がどんな気持ちだったとしてもそれほど嫌な感覚を持たれないように、明るすぎず、神妙すぎず、とげのない柔らかい雰囲気を心がける。

それで本当に相手が不快にならないのか。自信があるとは言えない。でもそうして「行動を起こす」ことにはきっと意味がある、と私は思っている。


大切なのは思いやること

結局のところ、表情が見えるにしても見えないにしても、コミュニケーションにおいて何より大切なのは「相手を思いやる」ということではないだろうか。簡単なことではないけれど、やはりそれに尽きるのではないか、と思う。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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