病や障害のある方へ~苦しいときにおすすめのブックリスト~前編
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2022.5.30
病や障害を抱えていると、ふとしたときに周囲との差を感じて息苦しく感じる瞬間がある。そんなとき、私は先人の遺した言葉を探した。
その時読んでいた本を紹介したい。今回は前編。
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執筆:大河内 光明 Komei Okouchi
1.エリック・ホッファー 『エリック・ホッファー自伝―構想された真実』
エリック・ホッファー『エリック・ホッファー自伝―構想された真実』作品社
「沖中士の哲学者」と呼ばれたアメリカの社会哲学者エリック・ホッファー。
公的教育を一切受けず、勤労青年として農園や港湾で肉体労働をしながら図書館で自学し、最終的には政治学の教授として大学で教鞭をとった。高名な政治哲学者ハンナ・アーレントとも親交があったのは有名な話。
彼には回避性パーソナリティ障害の気があると、とある書籍で精神科医の岡田尊司氏が指摘していたのが印象に残り、本書を手に取った。人との関わり方が独特で、仕事や恋愛のチャンスをことごとく逃す。そのことを本人も後悔していたようだ。さぞ苦しんだことだろう。
28歳、彼はシュウ酸で服毒自殺を図った。
しかし生き延びて、その後は読書と労働、そして思索の日々を過ごす。初の著作を出したのは壮年にさしかかったころのことだ。最終的には大統領勲章を授与され、80歳まで生きた。大器晩成型の人物だが、作家の中上健次氏に多大な影響を与えるなど日本人にも親しまれている。
とりあえず生き残ってみること。それで何かが拓けることもあるのかもしれない。
2.高野秀行 『ワセダ三畳青春記』
高野秀行『ワセダ三畳青春記』集英社文庫
大学を卒業して企業に勤めて結婚して子供を作って……
そういう「当たり前」のライフコースを歩まなかった(歩めなかった)人たちに贈るエール……なのかどうかはわからないが、大変勇気づけられた。
30を過ぎても三畳の安アパート暮らしだった著者だが、友人やアパートの住人たちとの人間模様がほろ苦く、心温まる。
病や障害などは直接関係ないので、気構えせずに楽しめる作品。普通の生き方でなくても、人生は楽しめる。
3.頭木弘樹『食べることと出すこと(シリーズ ケアをひらく)』
頭木弘樹『食べることと出すこと(シリーズ ケアをひらく)』医学書院
20歳の青春真っ盛りに潰瘍性大腸炎という難病にかかった著者。コントロールできない排泄、人間としての尊厳。絶望。
その中でも文学という世界に道を見出していく頭木さんの強かさには助けられた。本当に絶望の底に落ちたとき、心を救ってくれるのは同じ絶望の底を這った先人たちの言葉である。
倒れたまま、元の人生に戻れないまま生きていかなければならないとき、どんな言葉が必要だろう。「きっと立ち直れるよ」というポジティブな言葉だけが救いになるわけではないはずだ。
人は倒れたまま、ずるずる這って生きてもいいのだ。
<将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです>カフカ
他のおすすめ本:頭木弘樹他『病と障害と 傍らにあった本』 里山社
4.諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』
諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』晶文社
慶応義塾大学を卒業後、7年かけて一作の小説を書き続けた著者。結局受賞には至らず、そのまま欧州に旅に出る。
自殺、の二文字は常に脳裏に浮かんでいるが、文章を読むと本当に実行するつもりはなかったように見える。
それでいいのではないか。
人生を賭けた何かを成し遂げられなかったとき、責任を取るように自殺という発想に至る人がいる。そうでなければメンツが潰れるような気持ちになるからかもしれない。
死にたい死にたいと言いながら生きていてもいいし、「俺は今から死ぬ」と言いながら旅を満喫してもいいのだ。
5.永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』イースト・プレス
永田カビ『一人交換日記』小学館
永田カビ『現実逃避してたらボロボロになった話』イースト・プレス
ここからはエッセイ漫画を続けて挙げたい。
ADHDとアルコール依存症を公表している永田カビ氏。
一連の作品群は人間関係の苦手さや、社会適応のできなさから女性向けの性風俗に通い、酒に溺れて、1人で自分に向けた交換日記をするなど、苦悶煩悶する日々が綴られている。
街に出かければ充実した人々ばかりが目に映る。しかし、一歩家庭の中に入ってみれば、そういった苦しい日常を必死に生きている人もいるのだ。少なくとも、自分だけではない。
他のおすすめ本:史群アル仙 『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』秋田書店
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