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遺伝する障害を持つ私が、親に対して思うこと

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2022.8.18

発達障害は、遺伝と環境どちらの影響を強く受けるのか。今回は、発達障害当事者の私が遺伝や養育、そして自分の親に対する感情について、自分の経験を振り返りながら考えをまとめてみました。

執筆:森本 しおり Morimoto Shiori

「発達障害は遺伝と環境どちらの影響を強く受けるのか」

これはおそらく、これからも答えの出ない問いのうちの一つです。

「発達障害は生まれつきの障害だから、親の育て方のせいではない」という専門家もいますが、未だに明らかにはなっていないところもあります。

今回は、発達障害当事者の私が遺伝や養育、そして自分の親に対する感情について、自分の経験を振り返りながらまとめてみました。



そもそも、発達障害とは何でしょうか。

発達障害は、生まれつきの脳の機能障害です。自閉症スペクトラムやADHDなどが含まれますが、遺伝の影響を受けると言われています。

親やきょうだいに発達障害の人がいる場合といない場合では、生まれてくる子どもが発達障害である可能性が大きく変わってきます。



一方で、発達障害と診断された人の中には、養育の問題が誤診されている場合もあると指摘する医師もいます。深刻な虐待を受けた子どもは、発達障害児のような落ち着きのなさや、衝動性といった特徴を抱えることも多く、その症状が発達障害と似ているのです。



私が発達障害と診断されたのはもう5年ほど前ですが、色々と調べていて混乱しました。

「結局、原因も対処法も確かなものがないじゃないか。」

発達障害という概念が比較的新しいことも関係しているでしょうが、少し前に出版された書籍とはちがう説が書かれていたり、医師によって若干意見がちがったり、統計も数字がバラバラだったりしたのです。

私は「自分はどうだろうか」と、振り返ってみることにしました。



まず、遺伝についてですが、私は「明らかにADHDの特徴は、母方の家系からもらったものだろうなぁ」と思います。落ち着きのなさや、衝動的な言動は母や祖母とそっくりです。その部分を切り取れば「たしかに、発達障害は遺伝なのかもしれない」と思います。

一方で「発達障害の特徴は、家庭環境によって影響を受けるものです」と専門家に言われたら、そんな気もしてきます。

小学生のころ、私は毎日のように忘れ物をしている子どもでした。教科書、消しゴム、給食当番の白衣、体操服。部屋の中やランドセル、学校のお道具箱もいつもぐちゃぐちゃ。しょっちゅう探し物をしていました。

忘れ物や無くし物を毎日のようにしていたのは弟も同じでした。楽天的でおおらかな性格のためか、友達から物を借りることに抵抗がなく、全然気にしていなさそうでしたが。

実家はいつも物で溢れかえっていました。父は買い物が好きな人で、家の中には最新の電化製品、おしゃれな家具、本やDVD、家には天井の高さまである本棚が3つもありました。母は持っている物こそ少ないけれど、片付けや掃除が得意な人ではありませんでした。

私は「靴下が片方なくなるのも、お風呂場にカビが生えるのも当たり前だ」と思いながら育ちました。

大人になってからは部屋の片付けができるようになったので、子どもの頃はただ片付けの習慣が身についていなかっただけだったのかもしれません。



社会人になって、対人関係のトラブルでどうしようもなく困ったときにカウンセリングに行きました。そこでカウンセラーの先生から言われたことがあります。

「あなたは、家族の中で人間関係の練習をしてこられなかったのだと思う。人は与えてもらえたものしか他人に与えることはできないから、あなたは関心を持ってもらう方が先ね。」

人は、与えてもらえたものしか他人に与えることはできない。その言葉がジワジワと効いてきました。

誰かからもらったものは、自分の引き出しに仕舞われていきます。

子どものころの私は片付けの仕方をよく知りませんでしたが、母から料理を教わりました。今でも料理は生活の一部になっていますし、他の人に手料理をふるまうことも好きです。

カウンセリングでじっくりと自分の話を聞いてもらって「話を聞いてもらうと、ホッとするんだな」と知りました。そこから、意識して他の人の話を聞くようにしています。

自分の中にないものを教えてくれる人がいると、一つずつ引き出しが増えていきます。

親は子どもにとって最初に色々なことを教えてくれる人たち。子どもの頃の引き出しはほとんどが親からもらったもので満たされているかもしれません。それでも、引き出しを増やすことは、他の人たちにもできることです。



「発達障害の症状はどこから来ているのか」という問いに対する答えは、人によってちがうはずです。

脳の構造や伝達物質、遺伝、家庭環境、本人の性格や習慣。色々な要素が複雑に絡み合う現実の中から、どこを切り取ってつなげるかによって物語が変わってきます。

その中でも、遺伝や幼少期の家庭環境に焦点をあてたら、親を憎むことになるかもしれません。

私の障害や困りごとはどこかしらで親に関係があるのでしょうが、親のせいではないと思っています。たぶん、誰のせいでもありません。

発達障害に限らず、話をわかりやすくするためにシンプルな因果関係で説明しようとすると誤解を招きます。本来なら複雑に絡み合っているはずの他の要素を省いてしまうからです。

経験や知識が少ないうちは、家族や学校といった身近な人間関係がすべてになりやすいですが、それは単に自分の引き出しが少ないだけ。そこから先の人生で、増やしていけるものなのではないでしょうか。

1988年生まれ。「何事も一生懸命」なADHD当事者ライター。
就職後1年でパニック障害を発症し、退職。27歳のときに「大人の発達障害」当事者であることが判明。以降、自分とうまく付き合うコツをつかんでいる。プラスハンディキャップなど各種メディアへ寄稿中。

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