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看護師の優しさに救われた入院中のお話

~味気ない食事を拒否しても「わがまま」と片付けずに心をケアしてくれた

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2023.1.30

入院生活は不自由で、憂鬱なもの。
だが、看護師からの心温まるサポートで、暮らしが少し明るくなることもある。
あの配慮があったから、辛い入院生活を乗り越えられた。そう、しみじみ感じる看護師の配慮が私の胸には刻まれている。

執筆:古川 諭香 Yuka Furukawa

朝食を食べない私にしてくれた看護師の配慮が嬉しかった

小学校4年生の時、私の持病では最終的な手術だと言われているフォンタン手術を受けた。入院期間は、2~3ヶ月ほど。手術が無事終われば、周囲は安堵するが、当人にとって本当に辛いのは手術後だ。

術後、私は厳しい水分制限と食事制限を強いられた。完治に向かうため、それは大切なこと。幼いながら、頭ではそう分かっていたが、喉が渇いても自由に水分補給が摂れず、脂質を徹底的に排除した食事のみ口にできるという生活は小学生の私にとって、とても苦しいものだった。

体はドレーンで繋がれているため、自由に動くこともできない。なんだか、心もベッドに縛り付けられているような気持ちになり、ストレスだけが溜まっていった。

やがて、私は食事を口にしないという反抗を見せるようになった。調理師は制限がある中、試行錯誤し、料理を作ってくれていたことだろう。だが、脂質が制限された食事は味気ない。

私は、よく朝食に出てきた白身とうどんを固めた料理がすごく苦手で、「こんな食事なら食べたくない」と突っぱね、朝食を一切食べなくなった。

そんな反抗を続けていた、ある朝。看護師さんから、朝食を食べないことをやんわり注意された。ストレスが溜まっていた私は「そんなに言うなら、看護師さんが食べてみてよ!おいしくないから食べられない!」とわがままを言った。

すると、看護師さんは実際に一口食べてくれ、「本当だ。これは味がなくて辛いね」と心に寄り添ってくれた。そして、その後、医師や調理師と相談してくれたようで、食事の内容が少し変わり、醤油を数滴たらしてもいいとの許可もおりた。

わがままだと一蹴してもいい子どもの意見を真摯に受け止め、考えてくれたこの看護師さんがいたから、私は再びご飯を食べることができた。

また、補助看さんも私のわがままに耳を傾け、入院中のストレスが軽くなるように工夫してくれた。補助看さんは、いつも3時におやつを持ってきてくれていたが、毎回、代わり映えのしないヨーグルトに私は飽き飽きし、「いらない。食べたくない」と冷たい反応をした。

すると、「これね、凍らせるとシャーベットみたいになっておいしいんだよ」と教えてくれ、翌日、本当に凍らせたものを持ってきてくれた。

補助看さんの言うとおり、凍らせたデザートはいつもと違っておいしく感じた。そこで、私は「ずっとこれがいい」とおねだり。無理だと断ることもできるのに、補助看さんは「分かった。諭香ちゃんの分は凍らせとくね」と言い、以後、毎回、凍らせたものを持ってきてくれた。

おやつの時間は、入院している子どもにとって数少ない楽しみのひとつだ。だから、その楽しみをちゃんと感じ続けられるよう、工夫を凝らしてくれた優しさがありがたかった。

入院生活を“嫌な記憶”にしなかった看護師たちの温かい気遣い

術後、1度ドレーンが破れるという事態は起きたものの、私は順調に回復。体からドレーンが外れ、ベッドから起き上がれるようになった。

だが、1ヶ月ほど寝たきりだったため、歩行ができなかった。立ち上がるとフラフラしてしまい、歩行器なしでは歩けない。

子どもだったからか、私はそのふわふわ感がなんだか楽しくて、「まっすぐ歩けない」と笑いながら、廊下をふらふら歩き、歩行の練習に励んだ。

しかし、今までできていた普通の歩き方ができず、どうしてもガニ股になってしまうことに、ひとりで悩んでいた。すると、ある日、ひとりの看護師さんが「足をハの字にして歩くと、ガニ股が癖になりにくいよ」と実際にハの字歩きをし、やり方を教えてくれた。

患者が困っていることを見つけるには、その人のことを普段からよく見ていないと難しい。単に「歩けているならいい」と放置するのではなく、私というひとりの患者をちゃんと見てくれていたことが、とても嬉しかった。

他にも、看護師さんは「暇で退屈」と伝えると「行事で使うから、ハート型に折り紙を切って」など、ナースステーションでできる雑務を私に与えてくれた。看護師さんとお喋りしながら、作業する時間は楽しかったし、自分にもできることがあるのだと思え、入院生活が少し明るくなった。

そして、退院の日を間近に控えた、ある日。看護師さんたちは退院祝いとして、私に画用紙を使った寄せ書きをくれた。そこには病棟にいる看護師さんが折り紙で指人形のように作られ、張り付けられており、ひとりひとりのメッセージが記されていた。

おやつタイムを楽しめるように工夫してくれた補助看さんのメッセージもあり、心が温かくなった。

さらに、看護師さんは医師バージョンの寄せ書きも用意してくれていた。私の手術に関わった医師全員を折り紙で指人形にし、ひとりひとりからメッセージを貰ってくれていた。

その中には、手術中しか関わりがなく、私が直接顔を見られなかった医師もいた。寄せ書きを見て、私は多くの人に支えられて、自分の命が紡がれたことを実感し、胸が熱くなった。

コロナ禍により、近年、医療従事者が感じる負担はさらに増しているため、ひとりの患者にここまで時間をかけることは、なかなか難しいだろう。

だが、私が子どもの頃に出会った看護師さんたちのように、ひとりの患者に親身に寄り添い、体だけでなく、心までケアしようと奮闘する看護師さんはきっと、いる。そうした温かい配慮や気遣いのおかげで、患者は入院生活の中で笑える回数が増え、明日も生きようと思える。

あの時のお礼を医療従事者に伝えると共に、私が救われたような温かいケアを受け、自分の命を改めて尊く感じられる子が増えたらいい。

猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。

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