パラアスリートと仕事の両立はなかなか大変。でも、なんとかなる。ヒントは期待値調整。
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2023.4.13
先日、「パラスポーツと仕事をどうやって両立させているんですか?」と質問されました。この両立を進める上で自分の中で大切だと思っている「期待値調整」について、今日はお話ししたいと思います。
執筆:佐々木 一成 Kazunari Sasaki
先日、「パラスポーツと仕事をどうやって両立させているんですか?」と質問されました。
たしかに、この3年間はパラスポーツと仕事、どちらにも力を入れてきました。パラスポーツは、シッティングバレーボールの選手として平日夜と土日に週4日ほど練習をしながら、東京2020パラリンピックに出場しました。
仕事は3年前にパラアスリート採用(障害者雇用)枠で転職し、今では部門を任される役職者となっています。個人的にはパラアスリートと仕事の両立をうまく運べている実感があります。
今までは「障害者」というカテゴリを使わないキャリアを選択していましたが(一般雇用→独立・起業)、障害者雇用を活用しつつ、複業的なキャリアを送ることで(今も法人は運営中)自分のやりたいこと・好きなことを軸に、パラアスリートと仕事、そして2児のパパを両立(三立?)できています。
この両立を進める上で自分の中で大切だと思っている「期待値調整」について、今日はお話ししたいと思います。
期待値調整の具体的な取り組みーパラアスリートの場合ー
「期待値調整」とは、周囲からどのような期待をされているのか、自分がどこまで応えられるのか。そのすり合わせをしていくことです。厳密にいえば、期待値の「把握」と「調整」の2つに分けられます。
パラアスリートの世界でいえば、シッティングバレーボールというチームスポーツの中で、自分がどのような役割を期待されているのかを把握しなければ、チームに貢献できません。ポジションで期待される定性的な目標、世界基準で考えたときの定量的な目標などが該当します。
「自分に何が期待されているのか具体的に把握すること」は案外できていないことが多いものです。目標はチーム内で開示されますが、その背景や個人的にかけられている期待を具体的に知ることは、自分から情報を取りにいかなければ、なかなか難しいものです。
監督・コーチ・トレーナーといったスタッフに尋ねることもあれば、選手同士のコミュニケーションから察知することもあります。代表に選ばれるかどうか、レギュラーに選ばれるかどうか、そこは競争なので、情報入手の機会は不平等なものです。
自分に対する期待が把握できると、それに応えられるかどうかのチャレンジが始まります。
自分のアプローチが合っているのか、求められている期待に辿り着けるのか、チャレンジが上手くいく保証なんて何もありません。「期待に応えることができた」と感じたところで、他の選手が上回れば、自分が選ばれることはありません。
だからこそ、自分のアプローチが合っているのかどうか、期待値に辿り着いているのかどうか、他の選手と比較してどうか、その確認を行いながら修正を進めていくことが求められます。これもスタッフとのコミュニケーションによって実施します。
自分の期待値を引き下げる修正はアスリートの世界では行いません。時には回り道も必要ですが、基本的には最短経路で進める、効率的に進めるための調整です。
期待値の「把握」と「調整」、この2つが上手くハマると、世界と戦うための切符(自分のポジションを確保すること)に手が届くようになります。ただ、これは代表に選ばれるかどうかであり、試合に勝つためには違う取り組みが必要なのが、難しいところなのですが。
期待値調整の取り組みー仕事へどのように応用できるかー
期待値調整についてパラアスリートの現実を引き合いに出して説明しましたが、これを仕事の現場に置き換えてみても、大きくは変わりません。
仕事でいえば、1年/半年/3ヶ月といったスパンで目標設定をすることが多いはずで、自分で設定する目標もあれば、会社から下りてくる目標もあるでしょう。
会社で設定される目標は、自身に対する期待値です。目標を大きく上回る達成をすれば「期待以上」ですし、目標を達成しただけでは「期待通り」です。自身のステータス(役職、給与、待遇など)を引き上げるためには「期待以上」の結果の積み重ねが求められます。
この「期待以上」と「期待通り」の差を把握することができれば、ステータスを引き上げるためのポイントが明らかになります。
多くの会社では目標を設定するためのコミュニケーション機会があり、成果を振り返るためのコミュニケーション機会もあるはずです(なければ組織体制が不十分だと思ってください)。
ただ、自分にとって「期待以上」の結果となるものが、会社から明示される目標の中で「期待通り」だった場合は、期待値調整が必要で、少し下げてもらわなくては達成まで到底辿り着けない…なんてこともあります。逆も然りで、会社から明示される目標が、自分にとって「期待通り」のものであれば、評価は上がりません。
ここですり合わせができることは、パラアスリートの世界との違いのようにも思います。
まとめ
「期待値調整」について話してきましたが、私の中では他者からの期待に応えるという点では仕事とパラスポーツ、どちらも同じプロセスが必要だと感じています。
仕事とスポーツ、どちらもチームで動く以上、役割分担が必要です。そのチームに今必要なことや、自分への期待を把握した上で、どうやったら今の自分がその期待に応えられるようになるかは日々の調整が必要になってきます。そのためには、周囲の方々とコミュニケーションを取りながら、協力体制を作っていくことが大切だと感じています。
どうすれば階段をひとつ上ることができるのかという課題に直面したとき、思い出していただけると幸いです。
Text by
Kazunari Sasaki
佐々木 一成
1985年生まれ。生きづらさを焦点に当てたコラムサイト「プラスハンディキャップ」の編集長。
生まれつき両足と右手が不自由な義足ユーザー。年間数十校の学校講演、企業セミナーの登壇、障害者雇用コンサルティング、障害者のキャリア支援などを行う。東京2020パラリンピック、シッティングバレーボール日本代表。