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視覚障害者は語彙をどのように獲得するのか?当事者ライターが実践してきたこと

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2023.5.6

理解できる言葉、使える言葉を増やす。それはとても重要なこと。だが視覚障害児には、その過程でよくぶつかる課題がある。課題を乗り越え、多くの言葉を自分のものにするためにできることは何か。先天性全盲で、ライターとして活動する私の経験から考えてみたい。

執筆:山田 菜深子

理解できる言葉、使える言葉を増やす。それはとても重要なこと。

だが視覚障害者には、その過程でよくぶつかる課題がある。先天性全盲の私も、それにはずいぶん悩まされた。

課題を乗り越え、多くの言葉を自分のものにするためにできることは何か。ライターとして活動する私の経験から考えてみたい。


情報不足による勘違い

表情や身振り手振りを使ったコミュニケーションが難しい視覚障害者にとって、「言葉」というのはとても重要なもの。理解できる言葉や使える言葉をたくさん持っておくことは、人とのつながりをよりよくするためのカギとなる。

先天性全盲の私も、語彙を増やすためにこれまでさまざまな学習をしてきた。ただ視覚障害児には、語彙を獲得する上で直面しがちな課題がある。私もずいぶん悩まされたものだ。

その課題としてまず挙げられるのは、「バーバリズム」である。

バーバリズムとは、「言葉は知っているが、それが示すものの実態はつかめていない」という状態のこと。適切な概念やイメージの裏づけがないままに、主に耳から取り入れた言葉だけを学習してしまうのである。

私の場合、「空」という言葉は知っていたが、その実態については大きく誤解していた。空には形があって、手が届きさえすれば触って確かめられると思い込んでいたのだ。割りばしを束ねたようなものがいくつも宙に浮かんでいる。どういうわけか、それが私にとっての空だった。

視覚情報が得られず、具体的なイメージを持つための体験が不足し、このようなことが起こる。ここには十分注意しなければならない。特に空のような触ることのできないものについては、慎重に学ぶ必要があるのだ。

またもう1つ課題として挙げられるのは、特に点字を使用している場合、「漢字を見る機会が少ない」ということである。

漢字を見ていれば、知らない熟語に遭遇してもその意味を推測することはできる。ところが表音文字である点字や音声で情報を受け取る場合、それは不可能だ。

本など読んでいて新しい言葉に出会ったら、「何これ?」と戸惑うことになる。このとき、辞書を使って調べてみれば語彙獲得は成功するのだが、知っている漢字を自分なりに当てはめて解釈してしまうと勘違いが生まれるのである。

私も、いろいろと勘違いしてきた。「富裕層」と聞けば「宙に浮いて漂っているかのような浮世離れした人たちのことなんだな」と解釈したし、「発破をかける」と聞けば「頑張って」と木の葉を人にかける様子を思い浮かべていた。恥ずかしながら、本気でそう信じていたのだ。

日本語には同音異義語が多いこともあり、こういった勘違いがよく発生する。音だけを学ぶのではなく、表記にも注目するよう意識する必要があるのである。


好奇心、そして行動

では、このような課題を乗り越えて語彙を増やしていくためにはどうすればよいのか。

私の経験から考えると、やはり何といっても、「いろいろなものに興味を持ち、触れてみる」。これに尽きるのではないだろうか。

私は今こうして、曲がりなりにもライターとして活動中である。適切な漢字を選択しながら、パソコンを使って執筆している。語彙力が高いとは言えないけれど、言葉で表現することを仕事にできたのだ。

勘違いだらけだったあの頃からここまで成長できたのはなぜか。それは、好奇心が旺盛だったからに他ならない。何でも知りたい、触りたい。その気持ちで行動していたのがよかったのだろう。

触ることのできないものは実態を理解しづらいが、その辺りについては読書で補ってきた。本は、不足しがちな「イメージを持つための体験」を充実させてくれる。

小説やエッセイなど読むと、見えない私でもまるで見ているかのようにさまざまなものに触れられる。人の表情も、しぐさも、美しい景色も、本の世界を旅すればよくわかるのだ。

その体験の中でたくさんの言葉に出会えたから、理解できる言葉が増えてきたのだと思う。

そしてその言葉を積極的に使ってみた。そうすることで、漢字の恥ずかしい誤解も解消できた。

ありがたいことに、私は言葉そのものの探求にも興味を抱いている。語源とか、似ている言葉の微妙な意味の違いとか、深く学ぶことが好きだ。これも大きかったかもしれない。


たくさんの出会いがありますように

語彙が増えれば、コミュニケーションの可能性は広がる。仕事の可能性も広がる。

語彙が増えれば、身に着ける服やアクセサリーを決めるみたいに、「どんな言葉で伝えようかな」と引き出しを探ってぴったりなものを選び出す作業が楽しくなる。

私は今、そう実感している。

だから、強く願っている。視覚障害者にも、もちろんそうでない方にも、たくさんの言葉との出会いがあるようにと。その出会いはきっと、人生を豊かにしてくれるはずだ。

1987年生まれ。先天性全盲。「必死に頑張らない」がモットーであるが野望は大きく、世界を変えたい思いでライター活動を行っている。Amazon Kindleにてエッセイ集『全力でゆるく生きる~全盲女子のまったりDays~』を配信中。またブログやYouTubeで全盲当事者のリアルな日常を発信中。

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