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第5回「障がい者雇用のあるある座談会」 ~障がい者雇用のキャリア形成とは。将来を考える必要ある?~

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2023.6.4

こんにちは!パラちゃんねる運営事務局です。
障がい者雇用担当者交流会「FLAT(ふらっと)」への情報提供として、障がい者雇用で働く当事者の困りごとを集める場として2023年5月14日(日)に第5回「障がい者雇用のあるある座談会」を開催しました。当日は、Twitterスペースに120名を超える方に参加いただきました。

執筆:パラちゃんねる運営事務局

はじめに

2022年1月にオープンした求人サイト「パラちゃんねる」では、これまで3000社を超える障がい者雇用担当者と対話を続けてきました。

  • 障がい者雇用のはじめ方がわからない
  • 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
  • 相談する場所がない
  • 新卒採用と兼業で手が回らない
  • 社長・役員が障がい者雇用にネガティブである etc

障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当者の積極的な社内活動が必要不可欠です。

私たちは、障がい者雇用担当者を後押しするチームとして障がい者雇用担当者交流会「FLAT(ふらっと)」を形成し、職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。

今回は、障がい者雇用で働く当事者の困りごとを集める場として開催された第4回「障がい者雇用あるある座談会」の活動報告に続き、第5回「障がい者雇用あるある座談会」となります。

■スピーカー
>中塚翔大(パラちゃんねる オーナー)
多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を運営し、障がい者雇用を軸に誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会を目指し活動している。

>山田小百合(NPO法人Collable 代表理事)
障がいのある人達の社会参画と、障がいの有無を超えた学びと共創の場づくりを手掛け、インクルーシブデザインの普及や、障がいのある学生のキャリア学習支援事業を運営中。

>豆塚エリ(詩人・エッセイスト 兼 介護事業経営者)
16歳で飛び降り自殺を図り頚髄損傷(車いすユーザー)に。現在は「死にたい気持ちが消えるまで」の書籍を手掛け、詩人・エッセイストとして活動する傍ら介護事業の経営も行う。

当日はTwitterスペースに120名を超える方に集まっていただき、様々なコメントを頂きました。

障がい者でもキャリアを考えて良い?キャリア形成で陥りがちな思考の癖

今回のテーマは、「障がい者雇用のキャリア形成とは~将来を考える必要ある?~」です。前回までの座談会までを踏まえると、キャリア形成は考えたいけど、目の前にある現実に囚われてしまう方も少なくないように感じていますが、豆塚さんは、キャリア形成含め将来を考える必要があると思いますか?


>豆塚エリ
正直、考えないといけないと思ってはいるものの、余裕がないっていうのがずっと続いている感覚です。今回のテーマで、改めて障害者でもキャリア形成を考えて良いんだって思ったくらいで遠い言葉のように感じていました。

やっぱり仕事がそもそもないところから始まるし、就職できたとしても常に体力面での不安もあるから、とにかく現状維持することで精一杯という感じです。健常者を基準とした頑張りをすると常にキャパオーバーな状態なので病気や怪我など体の不調が起きないかの不安が付き纏っています。


>山田小百合
そう考えると、そもそも日常に余裕が持てないという人は多いかもしれませんね。


>豆塚エリ
そう思います。具体的な話をすると、19歳で就職した後に執筆やデザインができるフリーランスを目指して職能訓練に通ったんですが、結果的に無理が祟って入院したんですよね。そこで頭では分かっていたつもりだけど体の実態をようやく自覚するわけですよね。その後の仕事はなかなか安定できずに30歳で本を出すまでは貯蓄が目減りしていく状態でした。30歳までに本を出したいと漠然とした想いはあっても1年後どうなっているかわからないというのが続いて今に至るという感じです。


>山田小百合
結果的に30歳までに本を出す目標は達成していると思うんですが、具体的に取り組んでいたことはあるんですか?


>豆塚エリ
23歳の時に箔を付けるために新人賞に応募しようと思って、最終候補まで残ったことがきっかけでテレビの仕事が定期的に入るようになって、同時にSNSで発信すれば誰かの目に留まるんじゃないかくらいの狙いで動いてはいましたね。東京オリ・パラの時期でもあってタイミングが良かったというのは大いにあります。


>山田小百合
今回出版された「死にたい気持ちが消えるまで」はエッセイ本だと思うんですが、元々は文学でいこうと考えていたんですか?


>豆塚エリ
元々は詩を書いていたんですが、詩だとさすがに生活できないよなって思っていて小説を書いてみればとアドバイスがあって新人賞に応募しようと。ただ、やっぱり狭き門で頑張ったから成果が出るものでもないですし、実力はもちろん、運やタイミングも重要なので、需要があって、そして継続的に発信ができる当事者としての活動に落ち着いたというところです。


>山田小百合
今回の内容は、豆塚さん固有の事例かなと思うんですが、中塚さんとしてはどう思いますか?


>中塚翔大
表出された事例を見るとやっぱり唯一無二の事例だよね。ただ、そもそも論で「キャリアって考えなきゃではなくて、考えて良いんだ」という思考性や長期的なビジョンが身体的な状況も含めて考えづらかったり、漠然とした不安のために目の前の生活に焦点が当たり過ぎてしまうという観点で言えば、多くの人に当てはまるんじゃないかなって思いますね。

豆塚さんは、体力・体調面に不安があるって言うけど、具体的に何歳くらいまでなら今のペースで働けるとか想像できますか?


>豆塚エリ
実は早くも体力がないっているのはじわじわと感じていて現状維持で走れるのはあと10年くらいかなぁと。前職の上司が同じ障がいなんですけど、当時35歳で手動車いすで仕事終わりに夜に飲み行ったりと元気があったんですが、今は電動車いすで夜も飲み歩かないというのを聞いて、健常者と比較して体力が落ちていくスピードは速いんだなと思いますし、それを見て私の10年後の姿なのかと思っちゃいますよね。


>中塚翔大
ちなみにキャリアという言葉を使わずに「将来のビジョンは何ですか?」と聞かれたらどう答えるですか?


>豆塚エリ
将来のビジョンというかほぼ夢なんですが、私は大学に行きたかったけど行けなかったという経緯があるので大学にいずれは通いたいなとは思っているんですよね。ただ、現実的に考えて大学、または大学院までと考えると6年間あってその間の仕事どうするんだろうとか色々と切羽詰まってきてる感じもあります。


>中塚翔大
もう1つ質問を変えると10年後、20年後に幸せと感じている状況ってどんな条件が揃っていたら幸せと感じると思いますか?


>豆塚エリ
ライフワークとしては文章を書き続けたくて、本当はそれ1本で生活できたらベストだと思うんですね。学びも欲しいし、身に着けて知的活動が続けられたら良いなって、あと生活面だとまずは体が健康であること、そして生活が安定していること。体調など先の不安に備えていくらかの貯蓄がある状態ですかね。


>中塚翔大
今聞いた感じだとキャリアのことをしっかりと考えている印象を受けましたけどね。キャリアという言葉が悪いのかもしれないけど、日本は、「キャリアやビジョンの話=仕事・職種」と捉える傾向があって。ただ、仕事って時代や技術の潮流によって変化するし、考えるべきことはどんな人生を歩みたいかなんですよね。その観点で捉えるとしっかりとキャリアを考えていて、可視化もされているんじゃないかなと思いました。このテーマって日本の義務教育や就活などの文化・慣習から潜在的にやりたいことに固執する癖を持っていて、ただそうなるとそもそも求人がないって話になったり、障がい度合いが重いからとか、オフィス環境がとか外的要因とのかみ合わせになるので思考が進まないんですよね。


>豆塚エリ
そうですね。結局具体的に考えていこうとすると、色んな選択肢がこぼれ落ちてしまって、限られた選択肢しかないし、その中でキャリア形成ってなると厳しいんですよね。


>中塚翔大
何かになりたいって、基本は社会の中にある指標を基準とするから、自分の状態や社会の周辺環境を当てはめるとハードルは自ずと高くなってしまうんですよね。それが達成できないと何もできていないという結論になってしまったり、日本でキャリアの話題を考えるときは潜在的な視野の狭さを自ら作り出す傾向があると思っています。


>豆塚エリ
なるほど。キャリアとかイメージすると役職がある、資格をとる、海外へ行くとかを基準に考えてしまうので全く該当しないからその時点で思考停止に陥ってしまう感じだと思います。


>山田小百合
私たちが取り組むGATHERINGでも就活のことを考える以前に将来の幸せな状態を考えるようにしていて、そこから逆算してどこにチャレンジするかを考えるので大事な観点だと思いましたね。

現状を具体的に可視化することで不安は軽減されていく

一方で、仕事に焦点が当たる理由としてもお金(収入)が大事だからだと思います。長期的に考えたくても、目先の不安があるから考えられないわけなので、この不安を払しょくするにはどうすれば良いと思いますか?


>中塚翔大
これはもう不安でしかないよね。結局その視点で考えたとしても、就職後の上司との相性だったり、そのタイミングだったりと不確定要素が多すぎるから何を考えても不安だから不安の払しょくは難しいんですよね。ただ、生活を具体的に可視化してみるというのは大事だと思います。例えば年収300万の仕事をしていて年収に合わせた疲労度やストレスがあった時に、年収100万の生活費だとしたら差額200万って何のために稼いでるの、という話があるんです。もしかすると年収200万で生きやすい環境でやりたい仕事に就いたほうが幸せなんじゃないのみたいな。漠然とした不安を解消するための将来設計は他者比較のマジョリティ基準で決めるしかなくて、結果的に体力が厳しいって話になりやすいし、視野を広げるためのちょっとズラした考え方が持てると良いかなと思います。


>豆塚エリ
22歳で仕事辞めるときにやっぱり生活の不安があったので計算したことがあるんです。そうしたら生活費が15万だったんですね。そうすると障害年金が1級で10万弱あって、残り5万円分だけ働けば良いのかと考えた時にそこまでハードルは高くないはずだと捉えられたので退職に踏み切れたと思うんです。だから、具体的に生活を可視化するっていうのはすごく良いと思います。


>中塚翔大
ハードルを下げる思考って大切だと思っていて、「5万円も必要」「5万円だけ必要」とか文法を変えるだけで捉え方が変化することもあるので、目に見えるように可視化するというのは心理的にも思考的にも悪くないのかなと思います。


>豆塚エリ
あと、市役所の社会福祉課に行って生活保護の受給要件を聞きに行ったことを思い出しました。具体的な状態を知れたことで、最悪ここに来たら良いのかと考えられたのは自分の中で良かったですね。


>山田小百合
学生向けのセミナーを開催した時に発達障害当事者でファイナンシャルプランナーの方が給与明細を細かく見ることが大事という話をしていたんですが、意外と趣味から思いがけず出費が嵩んで生活が回らなくなるというのが多いらしくて、最低限の生きていける生活費と共にフェーズに合わせた選択肢を知っていると安心材料になるなと思いましたね。


>中塚翔大
成功するかどうかは別の話なのでそこは理解しておく必要がありますよ。それは運やタイミングだったり外的要因が揃わないといけないので。ただ、可視化してビジョンを描くと自己責任になるから日常をコントロールする力やモチベーションに繋がるし、心理的に前向きに働くことへ繋がります。その先の成功はわかりませんが、地図があれば失敗しても戻れば良いので、完全な迷子になることはない。これが可視化する意味なんだと思います。

「あなたの夢は何ですか?」にどう答えるべきか

■リスナーさんのコメント
身体障害があってグループホームで生活しています。3年ぐらい前に就職活動をしてもトイレの問題もあり、採用されない状態があります。


>山田小百合
前回もそうですけど、トイレ問題はもう必須要件ですよね。バリアフリーの問題があると選択肢は限定されるから、別の働き方を探すという話に繋がるだろうし、広い観点で見ることが大事という話が出てましたよね。


>中塚翔大
もう一つの観点で時間軸という考え方を取り入れることが良いと思います。今すぐ10万円稼ぎたいのと10年かけて10万円稼げるようになりたいとでは方法論が全然違うので、そういう視点を持つとすぐに就職ではなく発信活動から始めるとか、フリーランスとして経験値を積むとか創造性の広がりに繋がると思います。


■リスナーさんのコメント
面接のときにあなたの夢はと言われましたが、どう答えるのが良かったのでしょうか。


>中塚翔大
夢は世界征服ですって冗談で答えてましたよ。夢は見るものであって叶えるものではないから持ちません。目標は前に進んで近づくことができるので目標は持っていてと話していました。予測ですけど、この質問の場合、あんまり意図はないと思います。


>豆塚エリ
私も介護事業所で求人を出しているんですが、履歴書ってだいたい同じなので判断するのってすごく難しいんですよね。その人らしい一面を見たいということなのかなと思いますね。


>山田小百合
障害学生の新卒プログラムで人事担当の方がどうすれば働きやすいかの話題は出るけど、自分がどうなりたいみたいな話は障がい者雇用の場合、出てきづらいんですねと言ってたのを思い出しました。働くための確認事項が多いから、その先の話まで転じないので内面を知るための質問かもしれませんね。


>中塚翔大
僕は面接のときに将来のビジョンは必ず聞くんです。ただ、これは夢とは大きく違って、将来の幸せの延長線上にある仕事なら互いにWinWinですが、そうでなれば時間の無駄でしかないんですよね。だから、一緒に人生を逆算して応募の妥当性を判断するための質問なんですよ。なので、今回のケースだと面接官が適切に面接をできてないと判断しますね、個人的には。そもそも夢を叶えれる人は1%程度しかいないし、面接官も実現できてないことの方が多いはずで、この質問をするっていうのはナンセンスかなと思っちゃいますね。


>山田小百合
夢の話はすごい個人の価値観が出ますよね。夢を持つことが大事だって話ている人も多いと思いますし。


>中塚翔大
そう思います。発信するのは自由なんですよ。ただ、面接の場で質問すると夢がある前提になってしまうので、それが適してないという感じですね。もし夢がありませんと回答すれば、あなたは頑張っていませんねという烙印が押されるだけなので。

現実的なステップで進むことの大切さ

■リスナーさんコメント
現在は、身体障害でグループホームに住んでいて、専門学校を卒業してから30社ほど就活をしたのですがトイレ問題があってうまく進まずに精神的にも疲れてしまって今後はどうすべきなのかを悩んでいます。生活介護だと1ヶ月で1,000円とかで意味あるのかなと思ったり、テレワークといっても何をすれば良いのか。


>中塚翔大
これから在宅は広がるので仕事は増えていくと思いますが、まずは経験を積んでいくという視点でやりやすいものから挑戦するというのはありかもしれません。やりたいこと前提になるとそもそも身近に求人があるかどうかの話になってしまうので。

まずは実際に体が許す範囲で働ける条件を洗い出すと良いと思います。自分が働きたい・働ける条件と社会が許してくれる働ける条件って違うので、仮に就職活動で30社受けたとしても条件が不一致であれば受かる可能性は最初からないわけなので不合格になったことを落ち込む必要がないんですよね。


■リスナーさんコメント
家庭環境が複雑で2007年から精神科に通っていて、これまでは6年ほどIT関係でクローズ就労をしていました。その後、親の借金と介護が発生して今は生活保護を受けながら父親の介護をしています。今回、キャリアと聞いて段階的に整理しながら就労継続支援とか就労移行支援を使って一歩ずつ進んでいくのが良いのかと考えていました。


>中塚翔大
一つ一つが複雑かつ重いので同時並行で取り組まないことが大切かもしれません。自身の体力的にも思考的にも焦って同時並行で進めると余計に難しくなると思うので。


>豆塚エリ
どんどん行政を頼ってもらうと良いと思います。障害福祉課とか就労A型、B型も検討してもらって相談すると良いかもしれません。私も介護事業やっているので頼ってくださいって思ってます。


>中塚翔大
どうしても焦る気持ちも増えると思うので情報を集めることは初めて良いと思います。注意することは情報があると行動したくなるのですが、行動はしないということですね。問題を段階的に解決していく場合、解決してから情報収集になってしまうと時間がかかってしまうので事前の情報収集だけはしておいて問題解決後にすぐ動けるようにしておくというやり方であれば少し焦りを改善する方法になるかもしれません。

まとめ

第5回の障がい者雇用あるある座談会は「障がい者雇用のキャリア形成とは。~将来を考える必要ある?~」について議論を交わしました。身体的・精神的な不安定さが伴う中で目先の状態に囚われてしまう傾向があり、長期的なキャリアに視野が及ばない点が浮き彫りとなりました。

価値観や評価基準に至るまでマジョリティを前提とした社会が存在する中で、当事者の状態を把握し、マインドセットを理解することがあると互いにWinWinな関係性も築けるのではないでしょうか。

当事者においても限定された選択肢への疑問を持ち、可視化して分析することが求められるのかもしれません。それぞれがどんな人生を歩みたいのか、誰もが唯一無二で比較対象がいないことを前提として改めて考えてみることも大切です。

なお、第1回からの障がい者雇用あるある座談会の様子はnoteにも纏めていますのでそちらもご確認ください。
次回は、「法改正!合理的配慮の義務化で変わること」です。2023年6月11日(日)に開催をしますので、ぜひ興味のある方は気軽にご参加ください。

多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」は、2020年より「知る」を広げるラジオ・コラムのメディア活動に加え、「自由な出会い」を創出する障がい者雇用特化型の求人サイトを運営しています。

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