障害者が幸せな人生を送るためにお金は必要か?
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2021.5.26
重度の身体障害があると、日常生活を送るだけでも人よりも多くお金がかかります。支出は多くても、収入を得るための選択肢は少ないのが今の日本の現状です。今回は、車いすユーザーとして働き始めて4年目の私から見た「障害者が幸せな人生を送るためにお金は必要か」についてです。
執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura
はじめに
今回は賛否両論ありそうなテーマです。
早速、結論からいきましょう。障害者が幸せな人生を送るためにお金は必要か?私の答えは「お金は必要。でも、お金で買えない幸せもある」です。なんだか煮え切らない回答ですね。
私自身、車いすユーザーなので、必ずしもすべての障害に当てはまるわけではありません。ただ、車いすユーザーの事例であっても、他の障害のある方にも共通する部分はあるのではないかと想定しています。
では、ひとつずつ解説します。
そもそも幸せとはなにか。
私にとっての幸せとは、たとえ障害があっても、心の底から自分を信じることができて、自分がいる環境に感謝できる状態です。
だからといって、無理に「私は自信がある」と言ってみたり、思ってもないのに「みんなに感謝」と言ってみたりしたところで、自分の心は満たされません。
むしろ、中身のない外見だけの幸せアピールはその人を苦しませます。
そして、心の底から幸せを感じるために必要なものは「精神的なゆとり」だと私は思っています。
第一生命経済研究所の調査によると、日常的に精神的なゆとりを感じているかどうかが幸せに影響すると分かっています。
しかし、障害者が精神的なゆとりのある生活を送るためには、①日常生活の経済的負担と②選択肢の少なさという障害者特有の経済的な課題が壁となります。そしてこの2つの課題を解決するためには金銭的なゆとりが必要になると私は考えます。
障害者特有の経済的な課題
1.日常生活の経済的負担
まず、障害があると日常生活を送るだけでもお金がかかります。
私は頸髄損傷という障害を抱えています。そして障害を理由に毎月の医療費や薬代、入浴の介助をしてもらう訪問ヘルパー代、導尿カテーテルや尿とりパッドなどの雑費が必要になります。
また、私は体温調節機能障害があり、夏と冬は体温を一定に保つために基本的に空調をつけたままにしています。どうしても光熱費が高額になります。このように障害があると、日常生活を送るだけでも健常者よりもお金がかかります。
2.選択肢が少ない
さらに、障害があると様々な場面で選択肢が限定されます。ここでは住宅を例に説明します。
賃貸住宅を探す場合、築年数が古い物件はバリアフリー化していないことが多いため、車いすユーザーの生活には適さない傾向にあります。そのため、車いすで快適な生活を送る場合、比較的、築年数の新しい物件を選ばざるを得ません。
しかし、築年数が新しい物件は、環境が整備されている分、どうしても家賃が高くなります。
さらに、車いすユーザーは移動にも困難を抱えています。自家用車がない場合は、地域のバスや鉄道などの公共交通機関が利用しやすい場所である必要があります。また、急な坂道がある環境で生活するのは難しいです。このような理由から車いすユーザーは、住宅を探す時点で健常者よりも選択肢が少なくなります。
以上の2点から、障害者が精神的なゆとりがある生活を送るためには、ある程度のお金が必要となります。そして、このような金銭的負担を減らすために障害年金制度や医療費をはじめとした助成制度があります。
では、「公的医療保険制度を利用すれば、健常者と同じような生活を送れるか」というと現実はそうではありません。そのため、障害者が精神的・経済的なゆとりを感じられる生活を送るためには、仕事をする必要があります。
ただ、ここでも選択肢の問題が生じます。というのも障害があると、職業の選択肢が限定されやすいのです。つまり、経済的なゆとりを得るために働こうと思っても、その環境が整備されていないのが今の日本社会の現状かもしれません。
お金では買えない幸せ
では、「お金さえあれば、必ず幸せになれるか」というと、そうではありません。経済的なゆとりによって物質的な欲求を満たすことはできます。
しかし、お金では買えない幸せがあるのも事実です。その一つが「良好な人間関係」です。
平均的な年収であっても、周囲の人たちと温かく優しい関係性を保ちながら、愛情をたくさん受けて生きていくのは、多くの人にとって幸せで満ち足りた人生だと映ります。
一方で、経済的に裕福ではあるけども、信頼できる人がいない、表面的なつきあいしかできない、人の悪いところばかりが目につくような人生はどうでしょうか?
他者との関わりやつながりが幸せに影響を及ぼすことは、多くの研究が証明しています。
特に、ハーバード大学がおこなった75年に及ぶ追跡調査では「人が幸せを感じるためには愛が必要である」、もっと具体的に表現すると、「心から支えられていると感じられている人間関係である」と結論づけています。
つまり、お金さえあれば幸せな人生を送れるわけではありません。
まとめ
今回は、「障害者が幸せな人生を送るためにお金は必要か?」というテーマを解説しました。
まとめると、日常生活の経済的負担と選択肢の少なさという障害者特有の課題を解決するためにお金は必要だが、お金と同じくらい良好な人間関係も大切です。
しかし、お金と幸せを完全に切り離すことは難しいです。だからこそ、障害者が働ける環境がより整うことを願います。