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重度障害者の「一人暮らし活動」準備編

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2021.7.9

今の時代に、重度障害を持ちながら自立生活をしている方はたくさんいます。ただ、私が学生だった約18年前はまだまだ少なかったのです。今回は電動車いすで一般企業に就職することを決めた私の「一人暮らし活動」について、お話しします。まずは準備編。

執筆:佐々木 美紅 Miku Sasaki

「一人暮らし活動」とは?

私は脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの病気のため、電動車いすで生活しています。

脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚など全身の筋肉を動かす脊髄の細胞に異常があり、筋力が低下していく進行性の難病です。

1日4回、排泄、着替え、洗面など、ヘルパーさんの支援を受けて生活をしています。



そんな重度障害者である私が一人暮らしをするためには、様々な準備が必要です。家を探すことはもちろん、車いすで住める環境でなければいけませんし、ヘルパーさんなどの手配も必要です。

そのすべての活動をひっくるめて「一人暮らし活動」と私は呼んでいます。


私の生い立ちと一人暮らしをしたいと思ったきっかけ

学生の頃から「早く一人暮らしをしたい」という夢がありました。

小学校1年生から高校3年生まで病院に入院しており、病院には厳しいルールがありました。

6人で1部屋を使い、テレビはひとつだけ。病院内を自由に散歩をすることすら禁止されていました。私たちが自由に動けるのは学校とリハビリ室だけだったのです。

土日は外泊をして自宅で過ごすのですが、母はアルコール依存症で自分の病に苦しんでいる状態でした。

私は病院にいても、自宅にいても、心が休まるときがありませんでした。

大学進学をするつもりで奨学金を借りていたのですが、母が生活費に全て使ってしまっていたことが発覚し、進学を諦め、就職を目指すことになりました。

一人暮らしの準備として事前にやったこと

今の時代に、重度障害を持ちながらも自立生活をしている方はたくさんいます。しかし、 私が学生だった約18年前はまだまだ少なかったのが実情です。

当時、「きっと、頑張っている方がいるはずだ」と思い、インターネットで情報を調べることにしました。

車いすで一人暮らしをしている方の体験談を読んだり、車いすでラジオパーソナリティーをしている方を見つけたり。

連絡できる方にはコンタクトを取り、話を聞かせてもらい、養護学校に講演会に来てくれた相談室の方などに積極的に声をかけ、とにかく情報収集に努めました。

「人工呼吸器をつけながら一人暮らしをしている人もいて、私たちよりも重たい障害があっても自立生活している人がいる」と励ましてくれた車いすの先輩もいました。

だんだんと調べていくうちに「介護士の力を借りながらであれば、ほとんど体が動かない私でも一人暮らしができそう」だとわかってきました。

ただ、就職活動と同時に、自立生活のための手段を調べていたので、 精神的な負担が残る日々でした。

私は「仕事をして、一人暮らしをするという夢を叶えられるのだろうか」と、常に不安な気持ちをまとっていたのです。

しかし、学校の先生は遅くまで相談に乗ってくれて、その応援してくれている気持ちが活力になりました。



うまくいったこと、苦労したこと

就職活動と、自立生活を始めることを同時に進めていく上では、病院のルールと厳しさがここでも壁になりました。面接を受けに行くにも、病院の外出許可が必要でした。

また、当時、母の病状の悪化も重なりました。就職活動中に母の精神科の病院の先生から、入院している私に母の病状を伝えるため電話がかかってくることもあり、ストレスは高止まり。

なんとか乗り切れたのは、インターネットと親身に相談に乗ってくれた人の存在のおかげです。

自由に動けない環境にいながらも、インターネットを使えば世界中の情報を手に入れることができたので、自立生活を始めるヒントを得られたことも救いでした。

養護学校の先生や、生活保護のケースワーカーさんも相談に乗ってくれましたので、孤独に陥ることもなく、たとえ挫けそうになっても、前向きに捉えてチャレンジできました。

私は運が良かったのかもしれません。

まとめ

一人暮らしを始めるのがむずかしかったのは、重度障害の理由だけではありません。

病院のルールなどの当時の生活環境もあれば、家族の問題もありました。時代の影響もあり、今ほど重度障害者の一人暮らしに関する情報が出回っていなかったこともあります。

障害だけではなく、さまざまなことが絡み合うからこそ、自立生活に難しさが生まれるのです。

障害者自身が解決を難しく感じている問題は、障害ばかりが理由ではないのかもしれません。

相談に乗ってくれた先生や、生活を支えてくれるワーカーさんの存在も大きく、インターネットで出会う人や、周囲の人の支えが力になりました。

この後、実際に就職が決まり、一人暮らしを始めるまでには、役所への申請やヘルパーの手配、引っ越しなどさまざまな調整が必要だったのですが、詳しいことはまた、次回お話しできればと思います。

脊髄性筋委縮症のため、電動車椅子。コミュニティFMラジオで番組を担当。十三年務めた旅行会社で、通勤とテレワークを経験。障害者の就労、恋愛、結婚、アルコール依存症の母と過ごした日々などを、発信。体は動かないが世界とつながりたい。NHK障害福祉賞優秀賞。ライターとして執筆にも力を入れている。

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