重度障害者の一人暮らし活動 行動編1
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2021.7.27
高校卒業後、重度の身体障害を抱えながら一人暮らしを始めるためには、ヘルパーさんの存在が必要不可欠でした。今回は、ヘルパーさんの手配、契約、関わり方で出会った困難と、乗り越え方についてまとめました。
執筆:佐々木 美紅 Miku Sasaki
一人暮らしのためにヘルパーさんが必要な理由
私は脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの病気のため、電動車いすで生活しています。
脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚など全身の筋肉を動かす脊髄の細胞に異常があり、筋力が低下していく進行性の難病です。
私が一人暮らしをするためには、絶対に介助者の力が必要です。例えば、日常生活での着替え、洗面、排泄、調理などは介助者の手を借りなくてはなりません。
今回は、私が高校卒業をしてから、はじめての一人暮らしをする上で必要だったヘルパーさんの手配、契約、関わり方についてです。
ヘルパーさんの手配、申請について
一人暮らしの準備の一環として、ヘルパーさんの手配がありました。
あまり知られていないかもしれませんが、障害福祉のサービスは自分の意思で使う時間数を決めることはできません。「月に何時間まで利用できるか」の上限があらかじめ役所の審査によって決められているのです。
月に利用できる時間数の上限は、人によってちがいます。基本的に、障害の重さに比例して利用できる時間数は多くなります。障害の程度だけでなく、家庭の事情なども考慮に入れてもらえます。
ヘルパーさんを利用するための流れを簡単に説明すると(あくまでも私の場合ですが)
- ①役所へ行き審査を受ける。
- ②時間数の決定。
- ③事業所と契約。
- ④与えられた時間内で、サービスを利用。
という順番です。
私がはじめて役所で審査を受けたとき、利用できる時間数の上限は「身体介護月30時間」でした。
決定通知を見て、あまりの少なさに絶望しました。「1日に1時間も使えるなら、多いじゃないか」と感じる方もいるかもしれませんが、重度の身体障害を抱える私が一人暮らしを送るためには不十分です。
例として、私が一日に必要な時間を下記にまとめてみます。
- 朝支度、1時間。
- 帰宅時、30分。
- 入浴、3時間(週3回、二人体制)。
- 就寝介助、30分。
- 寝返り、30分。
月30時間ではまったく足りません。朝の支援しか入ってもらえない位、時間数が少なかったのです。
区役所からは「朝も入浴も30分で済ませてください」と言われました。
「朝と入浴だけではなく、就寝介助もその他も必要です。」と、伝えたところ、「ご家族がいますよね?」と返ってきました。
どうしたら理解してくれるのだろう。
私の母はアルコール依存症と鬱を発症していて、自分のことで苦しんでいました。私の介護を頼める状態ではありません。
悩んだ結果、入浴するところを役所の方に見学してもらうことにしました。知らない方に裸を見せるのは抵抗がありましたが、それほど必死でした。
その頃、母の病状が悪化し急遽入院することになりました。私の身体状況と家庭事情を理解してくれて、身体介護を110時間に増やしてもらえたのです。
支給時間が無事に決定すると、介護事業所を決める必要があります。右も左もわからない私は、役所の方に事業所を決めてもらいました。
ちなみに、介護事業所との契約までの流れは(これも私の場合です)
- ①介護事業所と面接。
- ②自分の生活パターンを整理して、入ってほしい時間を伝える。
- ③事業所が検討し、支援できそうであれば契約。
というものでした。
面接は、自宅まで来てもらって、これからどんなサービスを受けたいのかという話をしました。自宅環境を見ていただき、普段どのようにベッド移乗やお手洗いをしているかなど詳細を聞いてくれます。
その場で契約とはならず、一度検討してから連絡をくれることになり、ちょっとドキドキしましたが、後日契約を交わしました。
就職日になんとか間に合い、ヘルパーさんを利用できることになりました。就職が決まった上で、ここまでの流れを完結させなければ、実際に働くことは難しかったのです。
ヘルパーさんとの関わり方
無事にヘルパーさんの派遣が始まり、1週間で15人ほどがシフトを組んで来てくれました。
今まで入院していた私は、たくさんの患者さんに対して、少ないスタッフで対応してもらう環境のなかにいました。
しかし、居宅介護は、私のためだけに来てくれるのです。これだけで感動!本当にありがたい限りです。
はじめのうちは、プライベート空間に知らない人が入ることで、違和感がありました。リラックスする場に他人がいるのは、ストレスになります。人間なので、ウマが合う合わないもありますし、ヘルパーさんの年齢もバラバラです。
とはいえ、どうしても介護が必要なので割り切るしかありません。
「どうすれば、気持ちよく生活できるか」を考えて、2つの心がけを大切にしました。
まずは、自ら心を開くことです。好きな物の話や、将来の夢のこと、母のことで心配なこと、他愛のない会話をし、コミュニケーションを取るように心がけました。
そして、必ず感謝の気持ちを伝えました。「仕事だから来てくれるのが当たり前」とは思わないように気をつけました。
するとヘルパーさんたちは、母か姉のような振る舞いで私を可愛がってくれ、比較的すぐに打ち解けることができました。
まとめ
重度障害のある私が一人暮らしを始めるためには、朝の支度や入浴、就寝の介助をしてくれるヘルパーさんの存在が必要不可欠です。
ヘルパーさんを派遣してもらいたくても、最初から上手くいっていたわけではありません。最初の役所の審査では、私が一人暮らしを送るには不十分な時間しか認めてもらえませんでした。ヘルパーさんに来てもらっても、ウマが合わなかった方もいます。
自分から「時間数を増やしてほしい」と交渉したり、ヘルパーさんに自分から心を開いて色々な話をしたり、感謝を伝えたりしながら、少しずつ快適な生活を送れるようになってきました。
「助けてほしい」と発信をすると、必ず力を貸してくれる人がいました。一人暮らしを始めるときも、大勢のヘルパーさんに支えられたおかげで孤独になりませんでした。大変な状況でも、明るく前向きに頑張ることができました。
この経験を通して私は、障害があったからこそ、人の温かさを感じられたのだと思っています。