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トランスジェンダーの介護福祉士が嬉しかった職場の配慮

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2021.8.5

LGBTの当事者が入社しても、どう配慮をしたらいいのかわからないという方もいるかもしれません。今回は、トランスジェンダーの僕が実際に嬉しかった配慮をご紹介します。

執筆:佐藤 悠祐 yusuke sato

僕は現在の事業所を立ち上げるまで、いくつか職場を変えてきました。理由は「様々な形態の介護現場を見て、学びたい」という思いが強かったからです。

様々な現場で働く中で、トランスジェンダーだとカミングアウトをすると細やかな配慮をしてくれた職場がありました。その中から特に嬉しかった配慮をご紹介したいと思います。

勤務表・タイムカードの名前変更


僕は普段「悠祐」という名前で活動をしていますが、本名は違います。そこまで女性らしい名前ではありませんが、勘のいい人にはわかってしまうような名前です。

ですが、正式に戸籍名を変更をしていないので、「職場で使用する書類などは本名での記載になるだろう。バレたらバレたで、仕方ない。」と諦めていました。

ところが、入社2日前に施設の事務職員さんから「名前は○○でもよろしいですか?職場の書類であれば☆☆と☆☆の名前は変えることができるので希望があれば言ってくださいね。」というメールをいただきました。

そのメールに「できる限り悠祐でお願いします。」と返信すると、入社日に受け取った書類のいくつかは悠祐で作成されていました。

そして、変更できるものとできないものの違い、変更できないものに関しては最小人数でしか管理・共有しないこと、もし書類を共有する人が増える場合は報告することを教えてくれました。

従業員の立場では、どこからどこまで融通をきかせてもらえるのか分かりません。法人のできることと、できないことの線引きを教えてもらった上で、こちらの意志を尊重してくれたのがありがたかったです。

自分のプライバシーがどのように守られ、扱われるのかを示してくれたことで、「安心して働ける場所だな」と感じました。


健康診断時の「特別枠」


僕が働いていた職場では年に2回の健康診断があったのですが、受ける枠が男性と女性で分かれていました。

ただ、一箇所だけ「○日夜勤明けの人」という男女で分かれていない枠があり、フロアリーダーがその日は僕が夜勤明けになるように勤務を調整してくれました。

それだけではなく、介護・看護職員に聞き取りなどを行った結果、次回から男女で枠を設けることをやめ、自分が受けたい時間に受けることができるようになっていました。

聞き取りをした全職員が「別に脱衣をして検査するものがないから、男女で分かれている必要はない。それよりも勤務後の行きたい時間に行ける方が楽」と言っていたそうで、これも僕にはありがたい話でした。

男性用トイレに蓋付きゴミ箱を設置

個人的に一番助かったのは男性トイレに蓋付きのゴミ箱が設置されたことです。

僕はホルモン注射を打っていても時々生理がきていたので、職場でナプキンを変えなければならない時があったのですが、それまではゴミをどこに捨てるのかでかなり苦戦していました。

ですが、男性用トイレに蓋付きのゴミ箱が設置されたことで、その悩みは解消され、さらに他の職員からも意外な声を聞きました。

「実は自分も痔の薬を入れた後のゴミを捨てる場所に悩んでいた。」
「痔がひどい時に当てているパットを捨てる場所がなくて、いつも紙をぐるぐる巻にしてコソコソ捨てていた」

と言われた時には、このときに「ゴミ箱がなくて困るのは自分だけじゃないんだ」と思いました。背景は違っても、ひとつの配慮で多くの職員が助かることもあるのだと気づきました。



すべてこちらに聞きながらやってくれたことが嬉しかった

これらの対応を全て僕に聞きながらやってくれたことが一番安心につながりました。

人によって何が嬉しいかはちがいます。たとえば、自分のことを隠したい人であれば、男性用トイレに蓋つきゴミ箱を設置してくれても使えないかもしれませんし、設置されたことで、バレる可能性が高くなったと警戒する人もいるかもしれません。

また、気遣いのつもりの何気ない一言で、秘密がバレてしまったり、逆に傷ついてしまったりすることもあります。

だからこそ、他の人の目のないところで一つ一つ確認をしてくれるのは「僕のことを考えてくれているのだ」という姿勢が伝わってきて、とてもありがたかったです。

この職場なら広くカミングアウトしても大丈夫だと思えましたし、安心して、自分の力を発揮して働くことができました。

最初は全て「佐藤くんのために」とはじまったことでも、全職員が健康診断を受ける時間を自由に選べるようになったり、男性用トイレのゴミ箱のニーズが浮き彫りになりました。

慣れているルールを変えることは大変ですが、その手間をかけてくれたおかげでわかった事実です。

バリアフリーやユニバーサルデザイン、職場での様々な配慮は、巡り巡って多くの人のためになるのだと思います。この観点で職場を見直すことで、今の環境や規則が働く人達のパフォーマンスにつながるものなのか、見直すきっかけになります。

様々な職場で学んだことを活かして、職場づくりを進めていきたいと思います。

1991年生まれ。東京都八王子市にある【訪問介護事業所SAISON】の管理者。性同一性障害当事者。幼い頃から自分は男だと思いながらも誰にもいえずに過ごす。高校生で初めてカミングアウトをして以降「暮らす」「働く」について考え、現在は介護福祉士として障害を持つ人の暮らしをサポートしている。

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