車いすユーザーにとって大切な「親なき後の生活を想像してみる」
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2021.9.22
私が障害年金だけに頼らず、働いて収入を得ることを意識するようになったきっかけは、同居していた母の入院でした。「親なき後の生活」は障害のある子どもにとって避けることのできない問題です。そこで今回は「親なき後の生活」に対する私の経験をご紹介します。
執筆:中村 珍晴(ちん) Takaharu Nakamura
母との生活
私は大学1年生のときにアメリカンフットボールの事故で首を骨折し、車いす生活となりました。退院後は実家のある山口県で2年間生活し、その後、奈良県にある天理大学に復学をしました。
当時の私は、現在よりも一人でできることが少なく、一人暮らしをしながら大学に通うことは現実的ではありませんでした。そのため、母と兄が私と一緒に奈良県に引っ越し、父が山口県の実家に一人で残り、逆単身赴任の状態で生計を支えてくれました。
その後、兄は結婚と同時に独立、私は大学院進学に合わせて大阪に引っ越しし、母と二人で生活することになりました。
引っ越し先のマンションは、玄関や洗面所の入り口に10cm以上の段差があり、車いすで自由に生活できる環境ではありませんでした。当時は、訪問ヘルパーを利用していたものの、生活の大半は母に頼っている状態でした。
親なき後の生活を意識した出来事
大阪での生活が2年経過した頃、ちょうど私が大学院博士課程に進学した直後に、母が体調を崩し3週間ほど入院しました。
いつも自分のことよりも私の介助や手伝いを優先してきた母が体調を崩したとき、心配する気持ちが湧きおこったと同時に、母に頼りきりだった自分にとって「これからの生活どうすればいいのだろう…」と心に余裕がなかったことも事実です。
当時、食事の準備や身支度の一部を母に手伝ってもらっていたため、「この3週間の生活、どうしよう…」と路頭に迷うかのように慌てふためいたことを鮮明に覚えています。
「とにかくヘルパーさんに来てもらう回数を増やしてもらわないと」と思ったものの、恥ずかしい話、当時は行政の手続きをすべて母に任せていたので、何をどうすればいいか分かっていませんでした。
相談支援専門員の方に相談し、訪問ヘルパーの利用時間を増やし、また父や兄夫婦のサポートのおかげで、何とか3週間を無事に過ごすことができたのですが、この一件を通じて、「いつまでも両親がそばにいてくれる訳ではない」と強く感じました。
当たり前の話ですが、年齢を重ねていけば、両親が先に他界する可能性が高いです。「親なき後」という言葉がありますが、これからどうするかを考えなくてはと認識したのはこのタイミングでした。
その後の行動
母が無事に退院した後、私は少しずつ生活に変化を加えていきました。特に意識したことは以下の2点です。
- 母がいなくても生活できるようにすること
- 自分で収入を得て経済的に自立すること
① 母がいなくても生活できるようにすること
これはすぐに一人暮らしをするというわけではなく、一人でも生活できる環境を整えた上で母と同居するということです。
具体的には、一人で外出できる環境を整えたり、自分で行政の手続きや薬の管理をしたりするなど、母がいなくても生活できるようにしました。母に依存しない状態にするということです。
一人の大人として当たり前のことかもしれませんが、当時は、それすらできていませんでした。恥ずかしながら、母の入院で気づくことができました。
② 自分で収入を得て経済的に自立すること
母の入院を通じて、収入への意識が変わりました。当時は大学院からの奨学金と障害年金が私の収入でした。この収入だけでは生活は成り立たないので、父の仕送りのおかげで私は学生生活を送ることができました。
当時の父の経済的負担はかなり大きかったと思います。自分で収入を得て、経済的に自立することを意識するようになりました。
当時の私は大学院生だったので、働きながら研究活動に取り組むことは現実的ではありません。大学院の先輩に相談したところ、日本学術振興会特別研究員に採用されると国の研究員として、毎月奨励金(20万円/月)を受給しながら大学院で研究できることを教えてもらいました。
その後、この制度への申請に挑戦し、運良く採用され一定の収入を得ながら大学院生活を送ることができました。
現在の生活
その後、博士課程3年生に進学する前に現在の職場への就職が決まりました。就職と同時に当時お付き合いしていた妻と入籍し、現在は神戸で妻と二人で生活を送っています。ただ、結婚して夫婦生活を送るようになってからも、妻に依存しない生活を心がけています。
親なき後の生活を意識するようになったことで、「自立するためにどうしたらよいか」を考えるようになりました。今回の話は障害の程度や環境によっては当てはまらないことも多いかもしれませんが、一事例として参考にしていただけると幸いです。